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静岡おでん

 外からのぞき、カウンター一本だけの店というのは「一見さんお断り」の雰囲気を醸していて、のれんをくぐるのに少し勇気がいる。常連さんが談笑していれば、なおのこと▼静岡市の『青葉横丁』は、小体なおでん屋が天蓋付きの暗い路地の両側に並んでいる。そこはまさに通人の飲み屋街だった▼日が西に傾きかけた頃、渇いた喉が生ビールを欲して、濃密な時を堆積した小路に足を踏み入れた。『おばちゃん』(店名)の前を通りかかると、絶妙の間で「はい、どうぞ」の呼び込み。おっとりとした口跡が、筆者を店に招じ入れた▼カウンター内に声の主の小柄な老大将。十数年前に鬼籍に入った細君の祖父とうり二つの姿には、瞠目した。周りを明るくする太陽のような存在。酒の肴の静岡おでん盛りを「魚粉をたっぷり掛けるのが、ここでの流儀」の解説付きで供してくれた▼夏目漱石や永井荷風など明治~昭和期の作家はよく街を歩いた。『居酒屋の作家』(山本容朗著)で「街歩きは、彼らの文学作品と直結している」と説いており、物書きの端くれとして見習っている▼さて酒杯を重ねて、お勧めの生しらすを頼めば、両隣から「オレも」「オレも」の輪唱。店内に笑い声が満ちる。ふと、目にした箸袋の〝お味くじ〟に「人間は弱い。でも決意した時に強くなれる」とあった。あすからの仕事へ勇気をもらった。

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