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映画「八重子のハミング」

 写真家・宮嶋康彦さんは、妻を「愛氏」と呼んでいた。生後間もない娘を亡くした翌1981年、奥日光・湯元温泉(栃木県)の旅館に夫婦住み込みで雇われ、フォトノベル『日の湖 月の森』(草思社)を刊行した頃のことである▼こうした愛情深い一対の場合、伴侶が病に倒れたら心痛は絶えない。あんなに元気で輝いていた人が、なぜ…。残酷な運命を呪うかもしれない▼若年性アルツハイマー病を主題とした映画は近年、多い。日本の『明日の記憶』(2005年)、米国の『アリスのままで』(15年)は、いずれの主役俳優も人が壊れゆくさまを哀切に演じ、観者の涙腺を決壊させた▼『八重子のハミング』(公開中)は実話が下敷き。山口・萩市に暮らす教員夫婦を悲劇が襲う。妻が50代前半でアルツハイマー病にかかり、以降12年間、夫が献身介護する▼試写会に先立ち、佐々部清監督が製作費集めの苦労話をした。「7年前に企画したが、映画会社回りは全滅。だから映画関連以外からお金を集めた」。多くの出資者に頭を下げて回ったのだろう。ゆえに本作にかける情熱が違う▼食事と排泄シーンが多く、介護する者の苦労が切々と伝わる。知力が徐々に奪われていく非情な病。だが、妻に向ける夫の目は常に優しく、人としての尊厳を守り抜く。最期まで伴侶を「愛氏」と呼び通せれば、それは真実の愛である。

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