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映画「人生タクシー」

 国民の本音は、消費に敏感なタクシー稼業にこそ眠る。駆け出しの記者時代、ことある度に意見を拝聴させてもらった▼年齢、性別、国籍さえ問わず客を乗せる彼らは、かなりの情報通である。その言葉は政治、経済、事件から性風俗まで下手な専門家の高邁な見識を凌駕し、市井の代表としての金言となることしばしば▼私小説『東京タワー』を大ヒットさせたリリー・フランキーも、タクシー運転手と猥談の一つもできるようになって男は一人前とのことを確かエッセーに書いていた▼イラン映画『人生タクシー』(公開中)は、タクシー車内の密室ドキュメンタリー。ジャファル・パナヒ監督が運転手に扮し、乗客との会話劇を車載カメラでとらえる。映像には、混沌とした国情が生々しく露出する▼〝珍客万来〟。路上強盗、海賊版DVD業者、金魚鉢を抱えた老婦人などが相乗りし、死刑制度と犯罪抑止効果、イスラム法に基づく因習などの議論に口角泡を飛ばす。厳しい情報統制下で、この密室空間だけは言論の自由が守られる▼落とし物の財布を持ち主に届ける監督の善と、タクシーを離れた一瞬の隙を突いた車上狙いの悪が、ラスト画面に交錯する。反体制活動の咎で20年間もの映画監督禁止令を受けている監督は、明快な善悪の行為にイランの失政を見せ、正義はどちらか問う。ジャーナリスティックな筆は健在だ。

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