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味な店

 時代小説家・池波正太郎(1923~90年)は、多くの〝味〟な随筆を残してくれた。その1冊が『散歩のとき何か食べたくなって』(新潮文庫)である▼映画試写会の帰りや取材の途中で、ふらりと入った店を紹介している。「神田・連雀町」の項に洋食屋『松栄亭』の名を見つけた。年も押し詰まってから、3人連れで食事したことを記している▼サラダ、ポーク・ソテー、洋風かき揚げ等々に酒を4本飲んで、1975年当時のお代は3640円と激安。店主に尋ねると、「経費を少なくして、お客さまへ還元するというのが、私の、これは性分なんです」。まさしく料理人の鏡である▼以前勤めていた会社の近くにあって、若かった頃を思い出す。昼時は店の前に長蛇の列ができていた。私的には改装前の昭和レトロな雰囲気が好きだった▼売れっ子作家と違って、仕事の合間にそぞろ歩きする時間はつくれない。ならば『仕事の帰りに一杯やりたくなって』となる。知人の紹介で、JR市川駅前の日本料理店『藤』に入った。メインの「ブリのしゃぶしゃぶ」は絶品だった▼琥珀色のだし汁に、薄切りのタマネギを先に投入しておくのがミソ。ともに食せばブリのうま味が引き立ち、新味で客に還元する料理人の矜恃に敬服する。節分に、この出世魚を福は胃の内とやれば、〈こいつぁは春から縁起がいいわい〉。

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