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映画「海辺の生と死」

 ひととき瞑目して、製作サイドの伝えたいことがより鮮明に耳朶を打つ映画もある。邦画『海辺の生と死』(公開中)がそうした秀作だ▼第2次世界大戦末期の奄美の小島を舞台に、国民学校の代用教員(満島ひかり)と海軍特攻艇隊の隊長(永山絢斗)の純愛物語が始まる。近頃では珍しく、上映時間が155分という長編作である▼島のゆっくりと流れる暮らしのリズムを表現するのに、2時間半を超える長尺が必要だったのだろう。映画観賞中にまぶたを閉じれば、命の搏動が鼓膜を振るわす▼潮騒、せみ時雨、島唄の織り成すハーモニーが、平和の尊さを静かに訴える。しかし、日本の戦局が不利になるにつれ、平生の音が激しい爆撃音にかき消される。敵機来襲、機銃掃射…同期の桜、自決特攻。ああ戦争はなんと残虐な音を立てるのだろう▼まぶたを開く。銀幕には出撃直前の夜の海辺に、ひしと抱き合う若い2人がいる。木の葉のような小艇で敵艦への自爆特攻を決意した男と、愛する人にすがる女。国家という巨大権力の前に、個人はいかにも無力である▼本作は戦争の追悼歌だろう。越川道夫監督は、ラジオから流れてくる玉音放送をもって映画を締めくくる。現人神の肉声が国民を戦争の呪縛から解き放つ。やがて始まる復興の、希望の槌音が聞こえてくるようだ。終戦72年目の「8月15日」に聞こえた音は――。

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